Seen1 嘘つき女優

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あの撮影は、ずっと憧れていたブランドのアンバサダーに抜擢され、かなり気合いを入れて臨んだものだったので、褒めてもらえて素直に嬉しい。 でも、今はそんな話をしている場合じゃなくて…女優としての演技の話を…、 そう思いながら眉を顰めたのも束の間。 久城さんは私と視線を合わせるように腰を屈め、 「ねえ、あの撮影をした時。どんなこと考えてた?どんな準備をした?」 「え…?」 私を試すように…そう尋ねた。 数ヶ月前に行われた、ADDICTの撮影。 モデルとして、すごく大きな仕事だったから、わざわざ過去を振り返らなくても答えられる。 「…まず、ブランドの歴史から、開業当時の社会情勢…あとは創設者がブランドに込めた想いとか、片っ端から調べました。」 「…ん、」 「ADDICTのブランドイメージでもある誰にも流されない芯のある女性を表現しつつ、クールな雰囲気を守るために、いい意味で瞳を殺す表情を研究したりして…、」 「…」 「…それと、……って、 あっ、ごめんなさい…っ、ベラベラ話しすぎですよね!」 調子に乗ってベラベラと話してしまっていることに気がつき、慌てて謝る私に、久城さんが返すのは満足気な頬笑み。 「…それと一緒じゃない?…愛菜も。」 「…え?」 「さっき、愛菜が分からないって言ってたけど…それは台本に載っている彼女だけを見てるからだ。 ブランドに歴史があるように…人間にも生きてきた過去があって、未来があるでしょ?」 「…っ、」 「それを知りもしないで…その人になり切る、なんて。 …そりゃあ、出来るわけないよね。」
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