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Seen2 妖艶なキスシーン
「はい、ではテイク2、…3、2、…」
先程と同じシーン。
カウンターテーブルに縦肘をつきながら、やや細めた瞳で拓人を見つめる。
色気を放つ拓人に顔色ひとつ変えず、彼がこちらを見るまで微動だにしない。
ようやく拓人の瞳がこちらに向けられると、待っていましたとばかりにゆったりと口角だけを上げた。
愛菜を一瞥した拓人は真顔のまま目を逸らし、トイレの方向に消えていく……
そんな拓人の背中を見送って、愛菜は視線をグラスに戻し、再びナッツを口に放った。
「…カット!」
先ほどのシーンを終えて、かけられた監督の声に肩を上げる。
細めていた瞳を開いて、恐る恐る監督の方を見ると…
「…美波ちゃん…!…すごく良かったよ!」
満面の笑みで拍手してくれる監督の姿。
その瞬間、喉の奥がぎゅうううっと苦しくなって、体内の血液が一気に循環し始める。
「ほ、本当ですか?!」
「ああ、…美波ちゃんに求めていた、愛菜がよく再現されてた!」
…私の中に…愛菜がいた。
それは、苦手な演技の仕事を、最低限にこなす事だけを考えてきた私には信じられない言葉で…。
無理、じゃなかった。
私の中に…ちゃんと彼女はいて、それを外に出すのは…“やり方”次第なんだって…。
「…っ、ありがとうございます。」
深く頭を下げた。
すごくすごく嬉しくて…、この感覚は…初めて雑誌の表紙に抜擢されたあの時とよく似ていた。
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