Seen2 妖艶なキスシーン

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長くモデルをやってきた私にとって、“愛菜”という架空の人間の瞳を真似るより、“ADDICT”という実在するブランドのイメージで表情を作るほうがよっぽど馴染みがある。 「…そのやり方なら…、私、出来そうです!久城さん、ありがとうございます…、久城さんは私の恩人です!」 私に歩み寄った方法を考えてくれたことが嬉しくて、子どものようにはしゃいでお礼を言うと、久城さんは呆れながらも優しく笑い、私の頭に大きな手のひらをふわりと乗せた。 「まーた、目ぇキラキラさせて。恩人とか言うのは成功してからにしな?」 「が、頑張ります…、成功…させてみせます!」 「ふふ、それ失敗フラグなんですけど。 …まあ、頑張りなよ。サポートしてあげるからさ。」 「はいっ…!」 胸の前に拳を握って気合をアピールする私の背中をポンっと叩いた久城さんは、ニコッと笑って歩き出す。 「じゃ、さっさと撮影戻るよ、美波ちゃん。」 「…っえ、…み、美波…って、」 よく響く心地いい声で呼ばれた私の名前。 激しく肩を揺らし、久城さんを見上げると、 「んー?あんた美波でしょ?違う?」なんて、とぼけた顔をされて。 「い、いや…い、いきなり呼ばれたので…」と慌てて俯く私の顔を覗き込むのは意地悪な顔。 「名前呼ばれたくらいで、ピュアだねぇ…美波ちゃん。」 「そ、そんなんじゃ…っ!」 「これから恋人役演じるんだから、これくらい慣れなさい?」 「あいた!」 重みをかけて頭に乗せられた手のひら。 叩かれたのかと思って、大袈裟に反応した私を久城さんはクスクス笑って。 次の瞬間、その手を横にずらして頭を撫でた。 怖いと思っていた久城さん。 苦手だと思っていた久城さん。 でも、彼の手は驚くほど温かくて…。 彼に抱いた第一印象は、 あっという間に優しさの色に染まった。
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