Seen2 妖艶なキスシーン

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ーーーーーー ーーーーーーーーー 廊下の壁に背をつけて待っている私に気がついても、拓人は少しも驚く素振りを見せなかった。 まるで来ることが分かっていたみたいにこちらに近づき、余裕たっぷりに愛菜を見下ろす。 『…なんか、用ですか?こんなところで待ち伏せるなんて。』 潜められた低い声。気怠げな雰囲気にとって付けたような笑みをニコリと浮かべる。 『あなたがトイレに行くのが見えたから。着いてきちゃった』 首を傾げて可愛子ぶっても、拓人は全く靡かなくて…鬱陶しそうに顎を上げると、席に戻る方向に爪先を向けながら口を開く。 『…ナンパですか?俺、そういうのに引っかからないから、他探せば?』 『へー、慣れてるんだ?』 二人の間に流れるピリピリとした緊張感。 これは、百戦錬磨の二人がお互いどうすれば相手より有利に立てるか…と、セリフ以外のところで心理戦が繰り広げられているからなのだと、演じながら理解した。 拓人のシャツの胸元を握る。 『…じゃあここまでしたら?』 冷めた目で、でも口元はゆったりと微笑み… …ゴツ……ッ、 「…いっ、てぇ、…!」 「あわわわわっ、…く、くじょさっ、ごめ、ごめんなさ…っ、」 思い切り当たってしまった私のガッチガチに閉じられた唇。 リハーサルはフリでいいよ?と言われたものの、目をかたく閉じてしまったから距離感が分からずぶつかってしまった… 口を押さえて悶絶する久城さんの顔を半泣きで覗き込むと、 「……みーなみちゃーん。…あんた本当に…、」 「…ひぅぅっ、!」 怒ったような、呆れたような顔の久城さんが私の両頬を片手でむぎゅうっと押しつぶした。
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