Seen2 妖艶なキスシーン

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「じゃ、…今度は上手にキスできるように…」 「…」 「“お勉強”しましょうね?」 ただの演技指導だ。…ドキドキする必要はない。 …でも、相手が久城さんだから。 日本中に…世界に、熱狂的なファンが沢山いるようなすごい人だから…。 そんな人が、ふたりきりの部屋で、こんなに近距離で…。 これから“キスシーンの指導”をしてくれる…なんて。 そんな、稀な状況、普通でいられるわけないよ。 …でも、頑張らなきゃいけない。 これ以上、周りに迷惑かけるわけにいかないし、この映画には私のモデルという夢の続きがかかってる。 「お、願い…します。」と、ようやく小さく口から放たれた震える言葉。 久城さんは優しく笑って、「じゃ、目…閉じようか?」と静かに囁いた。 言われるがままに…目を閉じる。 顔に近づく気配。 ギュッと目を瞑ると、「愛菜はそんな強ばった表情しないよ?」と注意される。 「ほら、唇柔らかくして?」 「…はい、」 「半開きくらいがちょうどいい。…うん、そう…上手」 「…、」 暗闇の中、久城さんの声だけが頭にこだまする。 変な顔してないだろうか、って…そんなことばかりが気になって、演技に集中できない。 ようやく、唇に……ぷにっと触れた感覚。 思っていない感覚に、パッと目を開けると…。 「はい、ちゅー」 「…っ!」 久城さんの左手の人差し指と中指が、…私の唇に触れていた。 「く、くくく、久城さん……っ!!」 「ふふ、何?本当にされるって期待してた?」 「…っ!」 「しないよ、ただの演技指導なのに。」 顔を真っ赤にして発狂する私に対して、悪戯が成功したみたいにニヤッと笑う久城さん。 …ひどい、この人、やっぱり酷い人だ…っ!
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