Seen2 妖艶なキスシーン

13/31
前へ
/548ページ
次へ
ゔうう、と唸って久城さんを睨んだけれど、「ほら、仕事なんだから、真面目に練習しよ?」と首を傾げられれば、 あれ?…やっぱり普通に演技指導してくれてただけ?…なんて、訳分からなくなって。 「…ご、ごめんなさい…、」 「いいえ、頑張ろうね?」 「…、」 結局謝ってしまう情けない私。 うっかり、久城さんはまた私のことを揶揄ってるんだ…って怒りそうになったけど、 真面目に指導してくれようとした久城さんに勝手にドキドキしちゃった私が悪いんだよね。 もう…、もうすぐ次のシーン始まっちゃうんだから、しっかりしないと…私…! フルフルと首を振って雑念を払い、「よ、よろしくお願いします!」と改めて決意を新たに久城さんを見つめると、 久城さんは再びテーブルに頬杖をついて、「じゃあ、はい。」と呟きながら先程と同様、2本の指をこちらに突き出した。 「…はい…、とは…?」 「さっきと同じ。これを唇だと思ってやってみな?」 「…っ、」 口角を上げて余裕そうに笑う彼に対して…瞳を揺らしてしまう私。 目の前には久城さんの長くて骨張った美しい指があって、そこに自分から口付けるなんて…恥ずかしくて唇を噛んで俯く。 でも、そんなことしたって久城さんは私を許してはくれない。 「恥ずかしいなら、やめる?…本番は唇だけど。失敗しても知らないよ?俺。」 「…、くじょ…さ…」 「ただ恥ずかしいってだけで諦める子なら…幻滅だなぁ…」 「…っ、ごめ、…なさっ、」 少し残念そうな声に慌てて顔を上げた。 この映画を成功させるためには、私が愛菜になるためには…絶対に久城さんの力が必要なことは、この短い時間で十分理解した。 先程の撮影も久城さんの言う通りにしたら上手くいったし、仕事なんだから…恥ずかしがっている場合じゃない!
/548ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1146人が本棚に入れています
本棚に追加