Seen2 妖艶なキスシーン

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「……が、頑張ります…っ!」 両拳を胸の前で握って唇を真一文字に結ぶ私を見るや否や、目を細めてクツクツ笑う久城さん。 「ふっ、頑張るのね、」 「…え、だって…」 「ううん、頑張って?」 「は、…はい。」 私を観察するように向けられる優しげな瞳とは裏腹に、ずいっと距離が縮められた指先は容赦ない。 ドキドキと早まる心臓を押さえて、そっとそこに唇で触れた。 「唇硬い。力抜いて。」 「…んぅ、」 「顔強張ってる。愛菜は慣れてるから、そんな恥ずかしそうにしないよ。」 「…は…ぃ、」 淡々とした声で指示されて、恥ずかしさを捨てて久城さんの指に唇を這わす。 「口パクパクしながら角度変えてみ?濃厚な感じに見えるから。」 「…っ、ん、」 「こーら、目がトロンとしてる。可愛いけど、それ美波ちゃんでしょ?…愛菜の目、さっき出来てたじゃん。」 真顔で私の必死のキスを見つめる久城さんがちゃんと私を愛菜に育てようとしてくれるのが分かるから… 本当は顔から火が吹きそうなほど恥ずかしいし、ここから逃げたいし、泣きそうだけど、ここで逃げるわけには絶対に行かない。 演技が下手で、勘が悪くて、何もかもが乏しい私の演技指導なんて、面倒くさいはずなのに、こうやって付き合ってくれているんだから…、私も全力で成長しないといけない。 ADDICT着る、余裕のたっぷりの女に赤らめた顔なんて似合わない。 人生を楽しむように、目の前の全てを弄ぶように。 きっと、大人しく目を閉じているだけじゃ終わらない。相手の反応を嘲笑うように瞳を薄く開いて、妖艶に微笑む。
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