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「美波ちゃん、行くよー」と声をかけてから、踵を翻して楽屋の出入り口へと向かう久城さん。
その後ろを警戒心たっぷりに恐る恐る付いていくと…、
「あ、そうだ。」
「…っ、!」
ドアノブに手をかけたタイミングでこちらを振り返った久城さんにビクゥッ…と体を揺らした。
「あはは、今の反応小型犬みたい。」
「こ、今度はどうやって私をからかう気ですか!」
臨戦態勢で久城さんを睨むが、「こーら、威嚇しないの。全然怖くないよ?」ってあしらわれてしまう。
こちらに一、二歩近づき、私に合わせて少し腰を屈めた久城さんは「ここからは真面目な話。」と前置きをして話し始めた。
「言い忘れてたんだけど、今から撮影するシーンの肝はキスシーンだけじゃない。」
顔つきの変わった久城さんに、ピリッと緊張が走る。
先ほどから私の反応で遊んでばかりの久城さんだが、芝居に関しては今まで見てきたどの役者さんよりストイックであることはすでに実感していて…。
久城さんからの演技に関するアドバイスを一言一句、言葉のニュアンスまで含めて一つも漏らさないように視覚と聴覚に意識を集中させた。
「最後のセリフ…覚えてるよね?」
「『あなたが欲しいの。』ですよね。」
「ん…それ。どういう意味かは…理解してる?」
「えっと…拓人に一目惚れしたのであれば、『好きになったの』とか、『付き合って』とかじゃダメなのかなぁ…とは思ったんですけど…。」
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