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問いかけに言葉を濁すと、呆れたようなため息とともに降ってくるのは厳しい言葉。
「台本を理解してないのに本番に挑もうなんて、甘いね。」
「…はい、すみません…。」
「分からないことは、そのままにしないで。自分で考えて…それでも分からなければ監督に聞けばいい。愛菜の気持ちも理解しないで、彼女になり切ろうなんて…無理に決まってるからね?」
「…はい!」
淡々と紡がれる注意の言葉に、落ち込んでいる暇なんかない。
やる気と決意を示すように強く頷いた。
聞きたくても、「こんなことも分からないのか」って思われるのではないかと、忙しいのに迷惑をかけるんじゃないかと…遠慮していた自分を久城さんは見透かしている。
その遠慮を取っ払おうと、久城さんはあえて厳しい言葉を口にしている。
全ては私のため、作品のためだって理解できるから…
だから、この間の顔合わせ会の時とは違う。全然怖くなんかない。…彼からの叱咤が…私は嬉しくて仕方なかった。
上から私を見下ろす久城さんは真顔だった表情をフッと緩め、
「監督に聞きづらかったら俺に聞いてもいい。
…大丈夫、美波ちゃんなら出来るから頑張りな?」
と頭を撫でてくれる。
その飴と鞭に、心の中がホワッと暖かくなる感覚。これがなんなのか、私にはまだ分からなかった。
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