1146人が本棚に入れています
本棚に追加
「美波ちゃんは、愛菜はどの時点で拓人のことを好きになったと思う?」
久城さんの問いかけに、私はすぐに答えることができなかった。
なぜなら、何度も台本を読み返しながら、ずっと疑問に思っていたところだからだ。
「最初は…愛菜は拓人に一目惚れしたんだって思ってたんです。…でも、バーで拓人に出会うシーンを演じてみて…何か違うなって感じました。」
「うん、…それで?」
「相手を挑発するように駆け引きを楽しむ愛菜は…一目惚れして相手に媚を売るような人じゃないな…って、
…でも、すみません、やっぱりまだ私の中で答えは見つかってなくて…」
モヤモヤと霧がかかったその先にいるような愛菜の感情。もう少しで手が届きそうなのに、理解できない自分がもどかしい。
表情を曇らせる私に久城さんは優しく笑って、ゆっくりと落ち着く声で語りかける。
「大丈夫。自分だけの力で全部を理解しようとしなくてもいい。さっきみたいに俺がサポートするし。」
「…はい、」
「でも、考えることだけはやめないこと。…愛菜に寄り添って表現できるのは、監督でも俺でもない。…美波ちゃんだけだからね?」
「…私、だけ…」
何を考えているのか分からない、自由奔放、自分勝手…そんな台本の中の愛菜が理解できなかったし、…正直好きになれなかった。
でも、久城さんの言葉によって、彼女を演じることに対する“お仕事”以外の責任に気付かされた。
好きとか嫌いとか…私の感情なんか関係ない。
私が彼女を演じなければ、表現しなければ…、愛菜という人間は、この世に存在することすら出来ないんだ。
最初のコメントを投稿しよう!