Seen2 妖艶なキスシーン

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それに気がつけば、すごく重いことに感じた。人ひとりの人生を預かったような…そんな重責。 しかし、それと同時に私の中に生まれたのは、愛菜への愛着だった。 彼女を理解してあげたい、寄り添って…味方になって…そして、彼女に命を与えるような演技がしたい。 「久城さん、…私は愛菜を生きたいです。」 「…、」 「本当はひとつのシーンも残さず愛菜にならなきゃいけないのに…今の未熟な私では…多分、どう足掻いたって出来そうにありません。」 「そうだね…」 理想と…現実。 あまりにかけ離れた両者に嘆く時間はもはや残されていない。 それならば、現実を受け入れた上で…理想に近づける方法を考える。その方が明らかに効率的だ。 「図々しくてすみません…、『あなたが欲しいの。』っていう愛菜のセリフにはどういう意図が込められているんでしょうか。私は…どう演じるべきですか?」 考えろ、と言われたばかりなのに質問するなんて、怒られてしまうかとも思ったが、久城さんは初めから私にそのことをアドバイスするつもりだったらしく、すぐに落ち着いた声で話し始めた。 「さっき美波ちゃんが言っていたとおり、愛菜は一目惚れして健気に告白するような女じゃない。一眼見て拓人を気に入ったのは確かだけど、それはウィンドウショッピングで欲しいバッグを見つけたのと同じくらいの感覚だ。」 「…なるほど、分かる気が…します。」 「この時の愛菜の気持ちは所謂“欲”だね。“愛”からくるものじゃない。だから、『好き』とかじゃない、『欲しい』なんだ。」
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