Seen2 妖艶なキスシーン

23/31
前へ
/548ページ
次へ
洋服が欲しい、バッグが欲しい、それと同じ感覚で、拓人が欲しい…のか、愛菜は。 「人間を…欲しい…って、んうう?」 「ははっ、分かんない?美波ちゃんそういうこと思わなそうだもんね。」 「はぁ…、」 私が険しい表情になることを分かっていたように笑った久城さんは「じゃあ、とりあえずは…」と、先ほどと同様に打開策を提案してくれた。 「俺から何か欲しいもの思い浮かべながらセリフ言ってみな?」 「欲しいもの…ですか?」 「ん、何でもいいよ、お金でも、欲しい服買って欲しいとかでも。」 「はぁ…」 「とにかく、特別感情を乗せる必要はない。打算的に、俺を見るんじゃなくて、俺の持っている“物”を欲しいと思いながら演じるんだ。」 久城さんからの…欲しいもの、か…。 少し考え込む私に、「どう、出来そう?」と首を傾ける久城さん。 まだ具体的に何が欲しいかは決まっていないけれど、セリフの意味をきちんと理解していなかった先程までと比べたら、だいぶ愛菜に近づける気がする。 「はい…!頑張ります!」 ガッツポーズを宙に上げて返すと、「じゃ、みんな待たせてるから急ごう。」と、今度こそドアノブを捻って楽屋の外に出た。 久城さんから欲しいもの。 欲しい…もの…。 廊下を歩いている時、新しいセットに立った時、監督の掛け声がかけられる直前まで考えた。 考えて、考えて…ようやく見つけたのは、 …ものと言っていいのか分からないものだったんだけど。 きっと演技と一緒で正解なんてないから、…私は目の前のこの人からこれが欲しい…って、心と頭に響かせて。 「本番、3、2…」 監督の掛け声と同時、先ほど久城さんの指で練習させてもらったキスにスッと意識を移した。
/548ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1146人が本棚に入れています
本棚に追加