Seen2 妖艶なキスシーン

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「いやぁ、ラストのセリフは凄かったねぇ…!」 本日の撮影終了後、噛み締めるように言った監督に「本当ですか?!」と声を上げた。 「あまりに良すぎて鳥肌立ったよ。」 「う、…嬉しいです…、泣きそうです…!」 正直、あのシーンにカットがかかった後、静まり返ってしまった現場に「やっぱり失敗した?」と落ち込みかけた。 でも、久城さんがすかさず「想像以上の出来でみんな固まってるだけだからそんな顔しないの。」って頬を引っ張ってくれて、 その後すぐにスタッフさんたちが「良かったよ!」と声をかけてくれたおかげで、なんとかほっと胸を撫で下ろすことができた。 全体の撮影終了後に監督にも褒めてもらえて…まだまだだけど自分と役が近づけている感覚が嬉しかった。 初めから無理だって、自分にはできないって決めつけて、限界を作っていたのは自分だったのかもしれない。 前に進むチャンスをもらって、手を引いてもらって…そして広がった世界は果てしなく広く…でも、その広さに…今感じるのは絶望じゃない。 「…あの、久城さん!」 監督やスタッフさんに挨拶をして、楽屋に向かって隣を歩く久城さんの名前を呼んだ。 「ん?」と首を傾げてこちらを見下ろした彼に…私は恥ずかしいくらいやる気に満ちた目を向けて、拳を握った。 「久城さん…、私、今日初めて…演じていてワクワクしました!」 「…」 「今までは、演技のお仕事をするのが恥ずかしくて、苦痛で…出来ることなら大好きなモデルなお仕事だけしていたいと思っていたけど…、 久城さんのおかげで…私が愛菜をこの世界に生かせてあげたいと思いました!」 演技に対して初めて抱いた高揚感。 未知の未来に子どものように瞳を輝かしているであろう私を見つめて、フッと息を漏らした久城さんは、 「生意気。まだまだヘッタクソのくせに」 なんて、わざとらしく憎まれ口をききながら私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
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