Seen2 妖艶なキスシーン

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「へ、下手くそ、なんですけど!…でも、失敗したくないから…じゃなくて、愛菜をもっとちゃんと表現したいから頑張りたいって思えたんです…本当に!」 「はいはい、偉い偉い。」 「あ、久城さぁん!適当に流してますよねぇ?!今!」 「だってぇ、俺にそんな熱い演説してどうすんの?こっちが恥ずかしくなるんだけど。」 「…っうう、そう言われると…私も恥ずかしくなるんですけどぉ…、」 私を置いてスタスタ歩いて行く久城さんを小走りで追いながら顔を赤らめると、 「まあ、そういうのが初めの一歩なんだろうから…精々頑張りな?」 「…っ、」 ちらっと顔だけこちらを振り返って、微笑んだ久城さん。 その表情があまりにも格好良くて…胸が大きく脈を打った。 生まれて初めて浮かんできた女優としての意気込みを、 マネージャーでもなく、監督でもなく、 久城さんに伝えたのは… 他の誰よりも…この偉大な先輩に、私のことを認めて欲しいと思ったからだ。 「でも、今日撮影分のシーンはなんとか演じ切れたけど、これから愛菜が恋愛に堕ちていく様を演じなきゃいけないんだよ…? …果たして、美波ちゃんに出来るのかねぇ〜」 「…」 私を脅かすように話す声は私の耳には届いていなかった。 気怠げに歩く彼の背中を見つめ、胸から溢れる欲求にゴクリと喉を鳴らす。 久城さんの……信頼が欲しい、関心が欲しい、褒め言葉が欲しい。 愛菜に侵食されたのか、どんどんと貪欲になる私の心は一斉に叫び出す。 久城さんの…【心】が、欲しい…。 「久城さん…っ!」 「っ、」 数メートル先の久城さんの背中を呼び止めたのはほぼ反射的だった。 バクバクと今後への期待に震える心臓を抑えて、口を突いて出たのは… 私自身も予想していなかった、そんな言葉。
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