Seen2 妖艶なキスシーン

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こちらが説明していたはずなのに、いつのまにか質問返しをしてしまい、久城さんからはハァと呆れたため息がひとつ。 なんとなく申し訳なくて、「すみません…」とか細い声で呟くと、「はぁあ、美波ちゃんのおバカさに慣れ始めちゃったんですけど…どうしてくれんの?」って、おでこを小突かれた。 「とりあえず人来たら困るから俺の楽屋入りな?」と手を引かれ、あと数メートルのところにあった久城さんの楽屋の中に入るや否や。 腰を屈めた久城さんが私の顔を覗き込み、言い聞かせるようにゆっくりと口を開いた。 「美波ちゃん、自分がどういうこと言ってんのか本当に分かってる?」 「…は、はい」 「“恋愛を教える”って、まさか口で説明してもらうだけ…なんて思ってないよね?」 「……もち、…ろんです。」 真剣な久城さんの目を逸らさずに見つめて、コクリと頷く。 口だけの説明なんていらない。 恋愛漫画や小説。ドラマに映画…今まで勉強のために読み漁った全て、私の身にはならなかった。 感情移入して、ドキドキしたって、それは私が身を持って体感したものではなくて…それを演技で表現するのは結局は嘘なんじゃないかって…。 その感覚がもどかしく、それでも他に術を持たなかった今までの私は、納得いかないままにドラマや映画に出演して“嘘の演技”を繰り返してきた。 でも、今回だけは… いや、演じることへの希望を感じ始めた今、そしてこれからは… 「私、…本物の恋愛を知りたいです。」 「…」 「人はどうやって恋に落ちるのか、恋愛のドキドキも、苦しみも…今までドラマや映画で何度も目にした本物の恋愛はどういうものなのか… それを知って、愛菜の本物の恋愛を…心の変化を演じたいです。」 逃げない。…私には出来ないって諦めない。 もう“嘘の演技”じゃ嫌なんだ。 私にも“本物の演技”ができる可能性があるのなら…、 この世界で自分が生きていく道がぼんやりとでも目の前にあるのなら… 持てるチャンスは全て使って。 私は全力で前に進んでみせる。
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