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私から目を逸らして、ハァと吐き出されたため息。
困ったようにこめかみを搔く久城さんに、ズキっと胸が痛む。
例え、女優としてまだまだ沢山のことを久城さんから教授したいとしても…決して無理強いをすることはできない。
今日撮影したシーンだけでもすごくお世話になって…きっと面倒に思っただろうし、こんな慈善活動みたいな演技指導…久城さんには何もメリットはないわけで。
やっぱり、これ以上困らせたらダメだよね。…って、諦めかけて視線を下げた、その刹那。
「で、何を教えて欲しいわけ?」
「…へ?」
ボケっと見上げた先の久城さんは首の後ろに右手を引っ掛けて、緩く口元に弧を描く。
「“恋愛”教えるんでしょ?」
「…は、い…、」
「ふふ、てか何、“恋愛教える”って。…くく、さすが美波ちゃん。よくそんな馬鹿らしいこと思いつくよね、…ははっ、」
体をくの字にして笑い始めた久城さんをぽかんと見つめて、「…っ、あの…い、いいん…ですか?」とポツリ、呟くと…
「お馬鹿な美波ちゃん、気に入っちゃったからさ?俺が立派な女優さんに育ててあげる。」
「……っ!!」
ニヤッと笑った久城さんの大きな手のひらが、私の頭をふわりと撫でた。
その瞬間、ブワッと全身から喜びが湧き上がって、…意味もなく泣きそうで。
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