Seen3 初めてのレッスン

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Seen3 初めてのレッスン

「お邪魔しまぁ…す」 「はい、どうぞー」 恐る恐る、初めて上がった男の人の家はなんだかいい香りがした。 「あ、あの…これ、よかったら召し上がってください…」 「あら、こりゃご丁寧に。」 リビングに通されてすぐに手に持っていた洋菓子を差し出すと、久城さんはクスクス笑いながらそれを受け取った。 人様の家に上がるなら手土産くらい必要だと思って、ここに来る途中に買ってきたんだけど…可笑しかったかなぁ? 何もかも初めてで、勝手の分からない私。出鼻から間違えてしまっただろうか…と少し不安に思ったのも束の間。 「今時こんな丁寧にお土産まで用意する人珍しいから、微笑ましかっただけだよ?」 「…え?…あの、」 「だからそんな不安そうな顔しないの。ほら、気使わないで好きに座ってな?」 「…、」 何も言っていないのに、表情だけで私の気持ちを察してくれた久城さんはニコッと優しく笑って頭を撫でてから、私から受け取ったお菓子の箱を冷蔵庫に入るためにキッチンへと向かった。 久城さんって…ほんと優しいなぁ。 ホワンと暖かくなる心に小さく微笑んで、広い部屋にL字に置かれた大きなソファーの端にちょこんと腰掛ける。 初めて来る他人の家は、なんだか落ち着かず、ソワソワとシンプルかつ高そうな家具を見回していると、 「ふふ、キョロキョロして子どもみたい。」とアイランドキッチンに立つ久城さんに笑われてしまった。
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