Seen3 初めてのレッスン

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閉ざした瞼の先で、ゆっくりと近づく気配。 撮影の時、2度唇を触れ合わせているとはいえ…彼の家、テレビでは見たことない部屋着姿の彼と…プライベートで、なんて… 平常心でいられるわけがない。 口から心臓が出てしまうんじゃないかというほど跳ね回る心臓。 …でも、こういうのに慣れるために、人を好きになるのはどう言うことなのかを知るために、久城さんに無理を言った手前、ここで逃げるなんてできない。 意を決して、唇の力を抜きつつ顎をクイッと自主的に上に向けると…、 「なーんてね。」 「………」 「ふふ、なにその目。『分かってましたよ』みたいな顔。ついに美波ちゃんも学習したかー」 親指と人差し指で摘まれた私の唇。 何度も裏切られて、念のため頭の片隅に用意してあった予想がまんまと的中した私は、黙って久城さんをじとりと見上げた。 「ごめんね、俺好きな子はいじめたくなるタイプなんだよね。」 ううう、嘘だウソだ! そうやってまた私をドキドキさせようとしてるだけなんだ! ここに来て10分と経たない間にジェットコースターみたく気分を上げ下げさせられて、流石の私も怒るんですからね!? ブルブルっと頭を振って、クチバシを掴んでいた意地悪な手から逃れると、頬を膨らませて自分なりの怒った声で「久城〜さぁん?!」と吐き出した。 ………のに、 「あ、その呼び方そろそろイヤかも。」 「…へ、あ、…え?すみません、」 さらりと話題を変えられて、怒っていたはずの私は訳も分からず何故か謝ってしまう始末。 「せっかく共演することになったのに、苗字にさん呼びとか距離あるじゃん。」 「はぁ、」 「恋人役なんだし、親睦深めるためにとりあえず名前の呼び方から変えよ?」 「そ、そう…ですね、」 …私の怒りはどこへやら…。 まあ別に本気で怒っていたわけでもないし…、いいんですがね…? あっという間に久城さんペースの戻されてしまった現状に、 …この人に敵う日は一生来ないのだ、と悟りを開いた瞬間だった。
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