Seen3 初めてのレッスン

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家主様はどうやら私からの呼ばれ方が気に食わないらしいので、代わる呼び名を腕を組んでうーん、と考える。 「久城さんは私のこと“美波ちゃん”ですもんね?」 顔を向けて尋ねると、飲み物を飲んでいた久城さんは「ん?」と首を傾げながらテーブルにグラスを置く。 「別に決めてないよ?」 「あ、そうなんですか?」 「うん、俺は呼びたい時に呼びたい名前で呼ぶ。今のところ美波ちゃん呼びしてるけど、“美波”とも呼びたいし、“みーちゃん”も可愛いかもねぇ」 「…っ、み、みーちゃん、って…」 呼ばれ慣れない名前に照れる私を見逃さない久城さんは、「あれ?…みーちゃん気に入った?」なんて、意地悪な顔を見せる。 「き、気に入ってません!猫みたいだなって思っただけです!」 「あ、そう?」 また始まりそうな揶揄いモードを阻止しようと、プイッと顔を逸らして誤魔化す私に落ち着いた声で返した久城さんは… 「でも、美波は猫っていうより犬じゃない?」 「…っ、」 「……、ふふ、ただの呼び捨てにも照れちゃうの?はは、可愛すぎ…っ」 「て、照れてません…!うるさいです!」 「かあ〜わいい」 意地悪、意地悪、意地悪。 絶対ここで“美波”呼びしたのわざとじゃん、確信犯じゃん…! 本物の犬みたいにわしゃわしゃと頭を撫でてくる久城さんを、唇を尖らして睨みあげたけど、そんな顔すら「可愛い」と微笑まれてしまえば、もう私に成す術はなく。 「…昴くん、ひどい。」と、それだけ言ってそっぽを向いた。
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