Seen3 初めてのレッスン

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俳優の大先輩を動かして、私は一人ソファーに座っているなんて、何だか落ち着かない。 「あの…私何か手伝えることありますか?」 ソファーからわずかに腰を浮かせた私に「いや、温めるだけだから。」とクールに返した昴くんは、ピッピッピと電子レンジを操作する。 やっぱり申し訳ない気持ちは消えないけれど、人様のお家のキッチンを勝手にうろつくのも気が引けるし… 再びソファーに腰を沈めてなんとなく机の上に視線をやった私の目に飛び込んできたのは、映画の台本と重ねて置かれた厚めのノート。 「あの…昴くん、これって…」 「ああ、それ美波ちゃんに見せようと思ってたやつだから料理待ってる間見てていいよ。」 …私に、? キッチンからチラリとこちらに視線をやって答えた昴くんに首を捻りながら恐る恐るノートに手を伸ばす。 【サイコな女 ー 橘拓人 役 ー】と書かれた表紙を捲ると、1枚目には綺麗な大人っぽい字で年表のようなものが記されていた。 「…あの、昴くん、これって…」 「俺なりの拓人に関するキャラブック?ってやつ?」 「キャラブック…」 「台本に載っていない時間、演じる役がどんな風に生きてきたのか、家族構成、友人関係まで細かく想像する。その上で、どう言った感情で、台本を演じればいいのかを組み立てていくんだ。」 「なるほど…」
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