Seen3 初めてのレッスン

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産まれてから、愛菜に出会う28歳になるまで。事細かに記載された年表。 2枚目からは家族構成や好きな食べ物、苦手な食べ物。恋愛に対して執着がなくなってしまったキッカケとなる出来事など、詳細に書き込まれていた。 「…すごい。作品の度にこうやって役と向き合っているんですか?」 「んー、そうだね。一人の人間を演じる責任として、その人物が生きてきた歴史は押さえておきたいからね。意外とマメでしょ、俺?」 そう言って戯けたように笑った昴くんはすごくキラキラして見えた。 それは、ただ単純に昴くんの見た目がカッコいいからというだけじゃない。 天才だと思っていた人が。努力なんてせずとも簡単になんでもできてしまうんだと思っていた人が。 こんな風に時間をかけて役作りをしていることを知って…。 心から尊敬した。 影の努力から、あの憑依的な演技が生まれているのだと思えば、昴くんの演じる役も、昴くん自身もすごく尊いものに感じて… それと同時に、自分が恥ずかしくもなる。 「…私、ただ台本読み込んで、セリフ完全に暗記して。棒読みにならないような言い回しの練習をして…。たったそれだけで“やるだけのことはやった”って思ってたのが恥ずかしいです。」 「はは、そういうこと言うと思った。その努力すらできない人間もいるんだから。美波の努力はみんなに伝わってるよ。まあ、今のところ無駄な努力しかしてなさそうだけどね。」 「…っ、」 クスクス笑って辛辣なことを言いながら、温め終わった料理をこちらに運んでくる昴くん。 コトッと机にお皿を置くと、昴くんの言葉にショックを受ける私の後頭部をポンっと撫でて、 「大丈夫。努力の仕方は俺が責任持って教えてあげる。」 「…、!」 「そこから先は美波次第だよ。なんでもやるんでしょ?」 「…はい!出来ることならなんでも…っ!」 目を開いて全力で意思表示をすると、「さすが、俺の弟子」とクシャリと笑いながら頭を撫でられて、キュッと心臓が縮まるのを感じた。
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