Seen3 初めてのレッスン

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唇を尖らせてじっと視線を送る私に昴くんは少しの間固まって、 それから、「確かに、恋人にはしないかもね。」と笑う。 その言葉にズキっと電気が走ったみたいな心臓の痛み。 あくまでも私たちの関係は恋人“役”のただの共演者であって、昴くんの言葉に何もおかしいところはない。 それなのに私は恋人なんかではない、恋愛対象にすら入っていないと突き放されているみたいで…ショックだった。 「俺の服でいいの?」 「昴くんのがいい。」 不貞腐れた表情で呟くと、また一時停止した昴くん。 ようやく口を開いたと思えば、 「そういうこと、そんな顔で言ったら男は勘違いするんだからね?俺以外には禁止だから。」 と、よく分からないことを言ってから、再び隣の部屋へと消えてしまった。 帰ってきた昴くんが手に持っていたスウェットは、今度こそ明らかに大きい男の人のもの。 「大きいけど、本当にいいの?」と言いながら手渡され、ふわりと香る柔軟剤の香りが昴くんと一緒で思わず頬が緩む。 「うん、ありがとう!」 「…、」 ニコッと笑って昴くんを見上げると、一瞬、僅か見開かれた昴くんの瞳が優しく溶けて、こちらに伸ばされた手のひらが私の頬を包み込む。 「今の顔ずる…」 「え?」 「すげー心臓にきた。」 「…?」 独り言のように呟きながらじっと私の顔に視線を注ぐ昴くん。 しばらくの間見つめ合ったが、ビー玉のように綺麗な昴くんの瞳に吸い込まれてしまいそうで…私は先に目を逸らしてしまった。 そのせいで私の肌から離れてしまった昴くんの手。 慌ててまた昴くんの瞳を見上げたが、彼の視線はすでに私には向けられていなくて、目を逸らしたことを後悔した。
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