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「…だから、今日は会えないって夕方連絡したじゃん。」
「…」
リビングに戻ると昴くんはソファーに背中を預けながら電話をしていた。
スピーカーから僅かに漏れる音が高いものだったから、電話の相手は多分女の人。
近づいて良いのか迷ってその場に立ちどまったが、気配で私の存在に気がついた昴くんはゆっくりとこちらに振り向いた。
私を視界に入れた瞬間、ふわっと微笑まれて…
私の胸は、今日何度目かの高い音を立てて弾んで…。
電波の先の彼女に「じゃ、忙しいから切るわ。」と一方的に告げて通話を終了させると、すぐにソファーから立ち上がって「着替え終わった?」とご機嫌に私を迎えに来てくれる昴くん。
「あはは、やっぱりぶかぶかじゃん。」
「…、」
「ふふ、ズボン引きずってるし。」
電話の相手に向けられていた冷めた声色とは全く違う、優しい声色。
嬉しいはずなのに…、私とはまだそんなに親しくないからこそ気を遣って優しくしてくれてるんじゃないかって勝手に深読みして落ち込んじゃう自分がすごく面倒くさい。
なんだろう、…なんでこんなにモヤモヤするんだろう…。
「あの…もしかして今日、私より先に約束あったんですか?」
恐る恐る尋ねると、「あー、あったけど別に美波は気にしなくて良いよ?」と軽く返される。
その言葉に対する感情は、【申し訳ない】が普通のはずなのにね。
…なんで、どんな女の人に会う予定だったんだろう、とか…その人とどんな関係なの?とか…
どうしてこんなにも心が逆立ってしまうんだろう。
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