Seen3 初めてのレッスン

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チクチク、モヤモヤ…気持ちの悪い感覚に苛まれる心臓を親指でぐりぐりと押しながら、 「私、帰らなくて大丈夫ですか?」とぼそっと呟くと、その声は思っていたよりずっと感じの悪いものになってしまった。 誤魔化すように慌てて発したのは、「あ、あのっ、ほら!」という明るい声。 「で、電話の方怒ってるみたいだったし…、私が変なお願いしたせいで、昴くんが怒られて申し訳ないなぁ…って。」 「…」 「あの…帰った方がよければ、全然帰るので…、今からでもその方と会ったほうが…なんて、…。」 心にもないことを言っているせいで尻すぼみになる言葉。 やだ…、帰りたくない。 この後他の人と会うなんて…なんかやだ。 徐々に下がり始めた視線が、昴くんの足元まで到達した頃、 「ふふ、なんで帰んの?」 「え?」 「やだよ、まだいてよ。」 伸びてきた大きな手が、私の腕を引く。 腕を掴んだまま踵を翻してソファーに戻る昴くんの後を、ズボンの裾に転びそうになりながら付いて行くと、 「俺は美波といた方が楽しいと思ったから約束断ったんだよ?」 「っ、」 こちらに振り返ってニコッと笑う昴くん。 私に向けられるその表情が、その言葉が、 嬉しくて…、 胸を覆っていたはずのモヤモヤは、ドキドキの波に簡単に押し流される。 「…っ、わ、私が…変なお願いしたからじゃ…ないんですか?」 昴くんの服の裾を掴んで発した声は、少しいじけたようなものになった。 眉を下げて見つめる先。 私の不安げな視線を「ははっ、そりゃあ、美波は演技のためにここに来たんだろうけどさぁ?」と笑い飛ばしながら先にソファーに腰を沈めた彼は、 「俺は美波のこともっと知りたくて家に連れてきたんだよ?」 「…っ、ひゃ、」 いきなり腕を引かれて、ダイブした先は昴くんの上。 「なのに、帰るとか言っちゃダメでしょ、 みーちゃん?」 「す、昴くん…っ!!」 至近距離で囁かれた“みーちゃん”は、強烈で…。 一気に熱が集まった顔は、もしかしたら火がついてるかも。
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