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体を支えようと咄嗟にソファーの上に膝をついたせいで、太ももの上に跨るような形で彼の胸に覆い被さることになった。
慌てて昴くんから離れようと、腕を突き出したものの、背中に回された力強い腕がそれを許さない。
「す、昴くん、離して!」
「やだ、離したら帰っちゃうんでしょ?」
「か、帰りませんから…、」
バックンバックンと変な音を立てる心臓が明らかに異常で、息ができなくなる前に早く退避したいのに、私の願いに反して昴くんからの圧迫感は増すばかり…。
「あはは、みーちゃん心臓の音やばいよ。」
「や、やだ!聞かないで!」
パニックに陥りつつ、咄嗟に昴くんの耳を両手で押さえると、長いまつ毛に縁取られる瞳はキョトンと丸められて。
「…っぶ、…ふはは、何それ。やっぱ美波ちゃん可愛すぎ、くくっ、」
「…っ?!わ、笑わないでぇ!」
こっちはこんなに必死だっていうのに、私のこと馬鹿にして笑う昴くんはひどい…っ!
昴くんの手は私の背中から両手首に移動して、耳から遠ざけられた両手はバンザイのポジションで止められる。
うう、この格好、なんか屈辱なんですけどぉ…。
むむむ、と唇を結んで不満顔の私に、「ねぇ、だって普通…耳塞ぐ?」って、相変わらずケラケラ笑う昴くんは意地悪。
「ふ、普通なんて知らないですもん…、私の普通にこんな風に抱きしめられるような状況ないんですぅ…!」
顔をしかめて涙目で昴くんを睨むと、右手が解放されるのと同時に「あーもう泣かないで?」と赤ちゃんでも宥めるみたいに頬を撫でられた。
また馬鹿にされているみたいで不服なのに、どうしてだかその暖かい手を心地よく感じてしまうことが悔しい。
「は、恥ずかしいです…寿命縮んじゃうから離れていいですか?」
「ダメ、これもレッスン。撮影ではもっとすごいことするんでしょ、俺たち。ほら、美波も俺の背中に手回して?」
「…っ、え?!」
「ほーら、愛菜になりたいんでしょ?」
「ううう、ずるいです、昴くん…、」
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