Seen1 嘘つき女優

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幻でも見ているかのようにぼうっと見つめる私を気にも留めず、彼はズンズンとこちらに近づいてくる。 「あ、あの…」 半径5メートルほどの距離になった時、何か言わなければ…と、オドオドと声を上げ、 「あ、愛田美波です…、おねがっ、お願いします…!」 と…勢いよく頭を下げたところ、 彼は華麗に私の挨拶をスルーして隣の席に腰を下ろした。 軽いパニック状態の私に座ったままチラリとこちらに視線を送った久城さんは… 「自己紹介。…ちょっと早いんじゃない?」とクスリと笑う。 その瞬間、会場内がクスクスと笑いに包まれて、私の顔にはかああっと血が集まった。 「とりあえず座りなよ」と言って私の椅子を引いてくれた久城さんに「す、すみません…」と小さく謝って、素直に椅子に座る。 恥ずかしくて、背中を丸めて小さくなる私に、 「あはは、久城くん初めて見るとその反応になっちゃうよねぇ。俺も最初見た時は同じ人間じゃねぇと思って困惑したから。」 そう言って笑い飛ばしてくれたのは福山監督。 「なんすかそれ、失礼っすよ?」と慣れた様子で返す久城さんに、あははと監督は笑って、「じゃ、早速顔合わせ会始めます!」と声を上げた。 「みなさん本当にお忙しい中、集まってもらってすみませんね。チーム一丸となって良い作品作りたいと思って、こういう機会を作らせてもらいました。」 マイクを通して部屋に反響する監督の声にドクドクと心臓が鳴る。 隣に座るのはトップ俳優の久城昴さん。その横になんで私が?ってここにいる人みんなが思ってるに違いない。
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