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昴くんは私を抱き抱えたままソファーに腰を下ろしたから、私は彼の膝の上。
「や、やです。下ろして…。」
「知らないの?恋人同士では、彼氏の膝の上が彼女の定位置なんだよ?」
「…え、…そ、そういうものですか?」
「ん。」
「…で、でも…愛菜と拓人ではこんなシーン出てこな…」
「あんな異常者どもを比較に出さないでよ。恋愛映画演じるなら“恋人の基本”をまずは知っておくべきだと思うけど?」
「…はあ、そうですね…」
これまたほんとか嘘か分からない恋人同士の常識を教えられて、半信半疑ながら頷く私。
「じゃ、こっち向こうか?」ってウエストを掴まれて、渋々と昴くんの太ももの上で体を反転させる。
「……」
「…緊張、してる?」
30センチ圏内にある完成されたお顔。
その顔が目を細め、私の横髪を耳にかける。
トクトクトクトク、と尋常じゃない速さでビートを刻む鼓動。
それでも、逃げることなんて許されなくて、唇を噛んで覚悟を決めた私はなんとか、昴くんの綺麗な瞳を真っ直ぐに見つめる。
「…歯磨きしたし、美波以外のものは処分したし、…あと気になることは?」
フッと笑いながら首を傾げる昴くんにブンブンと頭を横に振る。
「…つ、つまらぬものですが…お、お納めください。」
「ふふ、なにそれ。嫁に来んの?」
「えっ、いや、そうじゃなくて…!」
丁寧に頭を下げたら思わぬ返答があって、また騒がしく言い返そうとした刹那。
「…シッ。」
「…」
「そろそろ、本当に頂戴?」
「…は、はひ………、」
口元に立てられた長い人差し指。
毛穴の見えない肌に美しい二重に縁取られた瞳。スッと伸びた鼻筋に、薄く形のいい…唇。
全てがよく見えた。
後頭部を支えられた手に力が加わる。
昴くんにしなだれかかるように体制を前に動かすと、スローモーションで近づく彼の顔。
…そして、
「…ん、っぅ」
そっと、緩い熱が触れた。
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