Seen3 初めてのレッスン

32/37
前へ
/548ページ
次へ
昴くんは私を抱き抱えたままソファーに腰を下ろしたから、私は彼の膝の上。 「や、やです。下ろして…。」 「知らないの?恋人同士では、彼氏の膝の上が彼女の定位置なんだよ?」 「…え、…そ、そういうものですか?」 「ん。」 「…で、でも…愛菜と拓人ではこんなシーン出てこな…」 「あんな異常者どもを比較に出さないでよ。恋愛映画演じるなら“恋人の基本”をまずは知っておくべきだと思うけど?」 「…はあ、そうですね…」 これまたほんとか嘘か分からない恋人同士の常識を教えられて、半信半疑ながら頷く私。 「じゃ、こっち向こうか?」ってウエストを掴まれて、渋々と昴くんの太ももの上で体を反転させる。 「……」 「…緊張、してる?」 30センチ圏内にある完成されたお顔。 その顔が目を細め、私の横髪を耳にかける。 トクトクトクトク、と尋常じゃない速さでビートを刻む鼓動。 それでも、逃げることなんて許されなくて、唇を噛んで覚悟を決めた私はなんとか、昴くんの綺麗な瞳を真っ直ぐに見つめる。 「…歯磨きしたし、美波以外のものは処分したし、…あと気になることは?」 フッと笑いながら首を傾げる昴くんにブンブンと頭を横に振る。 「…つ、つまらぬものですが…お、お納めください。」 「ふふ、なにそれ。嫁に来んの?」 「えっ、いや、そうじゃなくて…!」 丁寧に頭を下げたら思わぬ返答があって、また騒がしく言い返そうとした刹那。 「…シッ。」 「…」 「そろそろ、本当に頂戴?」 「…は、はひ………、」 口元に立てられた長い人差し指。 毛穴の見えない肌に美しい二重に縁取られた瞳。スッと伸びた鼻筋に、薄く形のいい…唇。 全てがよく見えた。 後頭部を支えられた手に力が加わる。 昴くんにしなだれかかるように体制を前に動かすと、スローモーションで近づく彼の顔。 …そして、 「…ん、っぅ」 そっと、緩い熱が触れた。
/548ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1144人が本棚に入れています
本棚に追加