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Seen4 危険な鑑賞会
『助けてくれて…、ありがと…。』
古株の元セフレに付き纏われていた愛菜を助けてくれた拓人にお礼を言う。
前のシーンで『恋愛なんてままごとで、遊びよ…私は誰も頼らなくたって生きていける強い女なんだから!』と豪語していた愛菜だ。
内心は助けてもらって嬉しいのに、きっとそれを隠して気まずそうに、不服そうに…口を尖らせながらボソリと呟くんだろう。
そんな私をチラリと一瞥する拓人はバツが悪そうに頭をかいて、こちらに背中を向けて吐き捨てる。
『別に。目の前で揉めてたら無視するわけにはいかねぇだろ。』
無愛想な態度にムッと顔を顰める愛菜は『…本当に、それだけ?』と少し大きな怒声を拓人にかけ、彼の腕をグイッと無理やり引っ張って目を合わせた。
初めに台本を読んだときには、助けてもらっておいてなんで怒るんだ…って呆れたけれど、今ならなんとなく愛菜の気持ちに寄り添える。
せっかく下手に出たのに、不遜な態度を取られたことに対する苛立ちに加え、
彼への執着の中に筆からぽたっと絵の具を垂らした程度の僅かな恋心が混じり始めていることを感じている愛菜は、きっと寂しかったんだろう。
『本当は私のこと好きなんでしょ?素直になったら?』
『んなわけないだろ。ああ、助けるんじゃなかった面倒クセェ。』
『…ちっちゃい男。』
『ああ?』
拓人は自分に全く興味がないことが悔しくて、むかついて…。
台本をただ読んだだけでは分からなかった彼女の気持ち。
高飛車な彼女が苦手だったけれど、…少しずつ…少しずつ…私の中で彼女への同情や愛情が芽生え始めている気がする。
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