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アナウンサーが昼のニュースの終わりを告げる。ラジオから軽快な曲が流れ出し、パーソナリティが番組名を軽やかに告げた。
本の山に埋もれて『廃棄』と『自宅送付』と『寄贈』とを選り分けていた小坂井は、縁の太いメガネの奥の目をしょぼつかせて大きく思い切り伸びをする。顎のはずれそうなあくびをもらし目尻に涙を浮かべながら、メガネのリムを幾度か叩いた。
「昼、過ぎたなぁ」
後頭部をぼりぼりと掻く。手入れの悪い首元で括っただけの長髪がワシワシと揺れる。絵に描いたような猫背を逸らし腰に手をあて肩首をゴリゴリ回すと、自分の周囲を目だけで眺める。ふぅと大きくため息をついた。
今年度はあと数日。この部屋の主が変わるまでもあと数日。部屋の床は段ボールに覆われて、物を入れるための什器の類は逆に中を空けつつあった。
「今日は帰りたいんだけどなぁ」
そして、明日は学部と修士と。共に卒業式でもある。
学部八年、修士三年、学部の卒業資格をお情けでギリギリに得た小坂井は学部の卒業式には出られなかった。そのため、ようやくというべきか、ついにというべきか。たどり着いた卒業式だ。四月からの身分は不定であっても、区切りくらいは迎えておきたい。そんなことくらいは考えている。考えてはいる。
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