蛹と袴

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卒業式に袴を着たいと娘が言った。 お正月に向けて着物の整理をしていたら、部屋の入り口に立っていた。 「綺麗でしょ」 「うん。」 スウェットばかり着ているけど、娘は色鮮やかな絵を好んで描いているので見るのは嫌いではないと思う。少なくとも見るのは。 着物そのものがどうこうより、華美なものや目立つことから離れたがっている時期があったので、着物を着る私のことも内心どう思っているのかわからない。 「卒業式、袴着たいんだけ、ど」 小さな小さな声。 「先輩が着てるの見て、可愛かったんだ、それでね、クラスの半分くらいは袴で、まゆちゃんも袴にするけどどうする?って聞かれて」 「そうなんだ」 大学生のイメージだったけど、最近は小学生も多いと聞いたけど。もっと都会の流行かと思ってた。 「でもレンタルも良い色とか刺繍のは早くみんなが選んでしまってて、同じ色はやめてって言われた子もいて、だから私もどっちでもいいんだけど。 もし知らずに被っちゃって何か言われたりも嫌だし、というかレンタルも結構高いよね」 だんだん早口になってうつむいていく。 ふむ。 「まなみ、着たいの?」 「着てみたい、けど」 「お金は心配しなくていい。人と被るのも。」 「けど、」 「けど、もし式に出られなかったらレンタルもったいないし」 うん、そうだよね。 ほぼ不登校で、卒業式に行けるかどうかも不安だろう。 言質を取りたいわけじゃない。 「じゃあ、卒業式に行かなかったとしても着て写真いっぱい撮ろう。美味しいものを食べよう。お祝いはしようよ」 少し顔を上げてくれた。 「あと、お母さんには秘密があります。」 手招きして、小さな声で囁いた。 「ええ?ウソでしょ!?」 ふふ、これだけ驚いてくれたら黙ってて良かった。
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