蛹と袴

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まなみが寝たあと、クローゼットの奥の箱をあける。 私の袴だ。和裁の学校の卒業式のために自分で縫う。 一度しか着ていないけれど手放せなくて引っ越しの度に眺めて、また閉じていた。 自分のものを仕立てたことは片手ほどしかない。 試験の時の着物は粗い部分があっても、必死だった当時を思い出して胸が締め付けられる。 まなみにはああ言ったものの、久しぶりに針を持つので不安だった。 それでも、作る。 封印した和裁道具を一つ一つ出していく。  裁ち鋏、絹針、指ぬき こて、裁ち板、物差し、 教科書。 ほとんど実地で覚えたので教科書はきれい。 まなみが、卒業式のことだけじゃなくて来年の初詣のことまで話していた。 明日もわからないほど真っ暗な中に立ち止まっているように思っていたのに。 もしそこに一筋の糸のような光が差しているのだとしたら 絶対に、縫い止めてみせる。 糸をパンと弾いて針穴をくぐらす。 世の中には綺麗なものがたくさんあって、まなみはそのうちの百分の一も見てないんだよ、まだ。 運針をしながら、ジャッと糸を引く。 まなみは、作れるはずがないって思ったかもしれないけど。 人間の手って、意外とできるんだよ。
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