ライブ

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「茜、もう自分のこと責めるのやめなよ」  私の隣りから身を乗り出して雅恵も茜の手を握った。 「渡部、もう気にするなよ」  大代君の低い声に合わせるように「そうだよ」と何人かが茜に声をかける。それでも茜は顔を上げなかった。  COVID-19、このウイルスの怖さのひとつは、症状が出ないことだ。だからただただ予防するしかない。  自分がかかることよりも、もしかしたら自分が媒介者になってしまうことが一番怖いことなのかもしれない。人を傷つけることになるかもしれないのと同時に、自分自身も責め続けることになる、今の茜のように。  私たちがどんな言葉をかけようと、慰めようと茜自身の心には、ずっと罪悪感が残り続けるんだ。平田先生がいなくなってしまった今、もう完全なる否定はあり得ないのだから。これから何年も何年も、茜は自分の行動を後悔して責め続けることになるのかもしれない。  茜の様子を見ながら、ここにいる誰もが私と同じことを考えているような気がする。 「後悔してももう仕方ないよ」  澤田君が言う通りだと思う。後悔しても仕方がない。でも後悔ってしたくてするものでも、したくなくてやめられるものでもないと思う。  まだ震えている茜の手をもう一度、強く握ったときだった。
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