二年遅れの卒業式

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 場所を変えてのパーティーには、元三組は出ないことにしていた。元三組の私たちは他の同級生たちのおめでたい気分とは違うものを感じていた。だからみんなで遠慮したというのが本当のところだろう。  その代わりに、当時の委員長だった澤田君が自分のバイトしているカラオケ店のパーティールームを押さえてくれている。私たちは先生方に挨拶をして、実行委員会にお礼を伝えてから会場をあとにした。  当時三年三組は24名だった。今日は12人が参加している。他のクラスに比べれば若干少ないかもしれない。12人は一人もかけずに澤田君のバイト先でもあるカラオケ店に着いた。  澤田君は元委員長らしく準備万端だった。パーティールームには軽食や飲み物が既に用意されている。  私たちはそれぞれに飲み物を選び、グラスを持って立ち上がった。 「澤田、なんか言えよ」  そう言ったのは元体育委員の串本君だった。言われた澤田君は、大きなディスプレイがある一段だけ高くなった小さなステージに登った。ディスプレイの横にあるマイクをチラリと見てから、消毒済みの袋をかぶったマイクは持たずに地声でグラスを掲げた。 「え〜、バイバイもまたなも言えなかった卒業式だったけど、クラス全員無事卒業できていたこと、おめでとう」  そう言ってさっきより高くグラスを上げた。みんな口々に「おめでとう」と言いながら自分のグラスを上げて一口飲む。 「……二年の間にこの学年で何人かが事故や病気で来れなかったけれど、俺たちのクラスは来れなかった者も含めてみんな元気で良かった」  何かを含んだような澤田君の声に、みんなの中に少し暗い気持ちが広がる。 「生徒は、な」  串本君の言葉に俯いていた女子の誰かが鼻をすすった。 「平田(へーた)に名前呼んでほしかったな」  ずっと黙っていた山代君。無口だった彼の低い声は不自然なくらい沈黙の部屋に響いた。 平田(ひらた)先生は私たち三年三組の担任だった。
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