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夕暮れの肌寒い風でサオリは目が覚めた。
「やあ、おはようございます。新しい日が始まりましたよ。バンジーはいかがでしたか?」
男がサオリの顔を覗き込みながら声をかけた。
「あの、これ、まさか私、ここは、あの世?いえ、あれ?」
混乱するサオリに男は説明を始めた。
ここはただのバンジージャンプ場ですよ。
ごくごくありきたりな、ね。
ただ、時々、それまでの自分を卒業したい人がやって来ます。
そんな時は、取り敢えず一度、それまでの自分を卒業してもらいます。
で、あとは、この力自慢の僕がえっちらおっちらと引き上げまして、新しいその人が目覚めるのを見届けるんです。
「金具!私ちゃんと外したのに。」
「ああ、あの金具はダミーですから。ちょっとロープ長めに調整しましたが、ぎりぎり完璧でした。我ながらさすがです。」
男は輝く笑顔で教えてくれた。そして、明るく力強い声でこう言った。
「ご卒業、たいへん、おめでとうございました!」
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