最低で最悪のサプライズ

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 ■  あの日あのまま私は心臓発作を起こしてもおかしくなかった。夫は気が狂ったわけでもなく、逆に気が狂いかけたのは私の方だった。  自分なりに完璧に作り上げたつもりの人生のラストステージに待っていたものは、どんな悪夢も足元にも及ばないような"最低で最悪のサプライズ"だったのだ。  そういえばあれが魂というものだろうか。  どこを彷徨(さまよ)って来たのか少しの間を置いて、それはただ突っ立ってるだけの私の抜け殻に再び戻って来た。 それからやっと事の次第をはっきりと理解した時、私を構成していたすべての部品がガラガラガラと音を立てて崩れ落ちた……跡形もなく。  そして卒業したのだ。  夫はサラリーマンを卒業し、  私は妻を卒業した。  ■  あれはもう十年も前のこと。  一度はバラバラになって死んだも同然の私だったが、さすがに雑学のように簡単にはいかなかったけれど、忘れ去るという特技をいかして私は新たなる部品で新たなる自分を構成した。  奇しくも子供を授からなかったことの問題はどうやら私の方にあったことが判明したが、たっぷりの慰謝料をもらい悠々たる面持ちで年金暮らしに突入したこの"新たな身"には、  今更そんなこと  どうでも良い話だ。                 END
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