最低で最悪のサプライズ

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 思い返せばいまだに腹が立つのだが、話は夫の定年退職というサラリーマン卒業の日より、ちょうど半年前に遡る。   ■ 「ねえ、お誕生日の後だけど、お仕事はどうするの?」  と、私はキッチンで食後のお茶をいれながら、極力さり気なくデリケートな話を切り出した。回りくどく言うまでもなく、要は夫の定年後の身の振り方についての話だ。再雇用制度を受けて会社に留まるのか、そのまま辞めてしまうのか。    夫はすぐに私が言わんとすることを察したのはいいが、その時の夫の態度が私には気に入らなかった。彼はなんとキッチンにいる私の方を振り向きもせずに、リビングのソファで私に背を向けたまま、 「もう会社勤めは卒業するよ」    と独り言のように言ってテーブルの上の新聞を手に取り、カサカサめくり始めたではないか。夫はわたしの返事を待つこともなく、この大事な話をたった一言でブツンと断ち切ったのだ。
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