最低で最悪のサプライズ

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 私達夫婦に子供はいない。出来なかった。  治療をしたわけでもないから、私に問題があるのか夫に問題があるのかは分からないけど、そんなことはどうでも良くて簡単な話、子供がいないならいない夫婦になるだけのことだった。    実際そういう風に私達は三十年以上の年月を仲睦まじく暮らしてきたつもりだ。週末には映画を観たりたまにはお芝居を楽しんだり、時には子供連れでは入れないようなレストランで食事をした。子供にお金も手もかからない分二人の時間を大切にして、お互いいつも向き合って来た……つもり。  現に三人の子供の育児に悪戦苦闘中だった友人に「あなた達はいつまでも恋人同士みたいで良いわねぇ」と会うたびに溜息混じりに羨ましがられ、「まるでおしどり夫婦の見本ね」とまで言われるような二人だった。      しかしあっという間に時は流れて、久しぶりに会ったその友人の話題は「長男が昇進して課長になった」やら「娘に二人目が出来た」「次男の海外赴任が決まった」なんてことばかり。  どうやら友人が私達夫婦を羨む時期はとうの昔に過ぎてしまい、彼女の人生は次の局面に移ったようだ。そしてその幸せは今までの子育ての苦労を差し引いても余りあるものみたいで、逆に今度は私の方が自分よりも色彩豊かに見える友人の暮らしが羨ましい……なんて、これぞ「隣の芝生は青い」ということなのだろうけど。
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