最低で最悪のサプライズ

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 しかしここ数年は、友人の人生だけじゃなく私達夫婦の人生も次の局面に移りはじめ、あれよあれよと互いの両親が鬼籍に入った。  今思えばあちらでは介護こちらでは葬儀の手配に諸々の手続きと、大変なこと続きだったのだが、当時は目の前の問題をひとつずつ片付けていくことに精一杯でその大変さにはあまり気づかなかった。しかし兄弟のいない私達は短期間にお互いの両親を次々と亡くし、いよいよ正真正銘、この世にたった二人の家族になったのだ。  そこに定年退職と来た。    入社して三十八年。夫はインフルエンザ以外は大きな病気もせずに、雨の日も風の日も雪の日も嵐の日も真面目一筋に勤め上げた。その夫が決めた退職のことだ、反対なんかするわけがない。    お金のことだって年金受給まではあと五年あるとはいえ退職金も出るし、すでに住宅ローンは前倒しで払い終えて、退職金以上の預金もある。もう働かなくても……万が一、百歳まで生きたとしても年金制度が崩壊しないかぎり食べるには困らない。流石に大名旅行とはいかないにしても、四季折々にはささやかな旅を楽しめるくらいの暮らしが待っている。  そこは真面目一筋で来た夫と、老後のために締めるところはきちっと締めて来た自称遣り繰り自慢の私が、当然のごとく辿り着いた人生のラストステージだ。このことは暗澹たる御時世の中に於いて本当に幸せなことで、 小さな不平不満を愚図ることはあるにせよ 、私は夫の定年退職を目の前にして充足感で満ちていた。  しかしその完璧だったはずの人生のラストステージに突如として、喜劇のような悲劇が待っていたのである。  何故あんなことが起きたのだろうか?  どなたか教えて下さい。
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