最低で最悪のサプライズ

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 背後霊?  馬鹿な    そんなわけがない。  いやしかし、現実に子供連れの若い女性が夫のにいるではないか。では地縛霊? 私の馬鹿な考えは収まるところを知らず、さらに馬鹿を重ねて私はこう思うのだ。あれが背後霊でも地縛霊でもないとしたら、まさか守護霊なのか。    もうっ!  じゃ何?  霊じゃないなら何なの!?  いつの間にかグチャグチャに絡まったイヤホンのコードみたいに、秩序なく交錯する私の頭の中の問いかけに、夫が落ち着いた口調で答えた。 「君が混乱するのも無理はないが、この子は僕の子供なんだ」  夫の話し方は許されざる戦慄の告白の割には、いつもと変わりない平坦で淡々としたものだった。 「え…………」  夫は気でも狂ったのか。  あまりのことに私は何も言えなかった。 「すまない。君を深く傷つけることは十分承知している」 「…………」  声が出ない。  ここはテレビドラマのワンシーンのように、泣いたり喚いたりしなければいけない場面じゃないのか──もう一人の自分がそう囁くのだけどとてもじゃない。私は何も言えなかった。  そして何も言えなくなっただけでなく、何も聞こえなくなり、何も見えなくなった。目の前の現実が消え失せたのだ。そして私の中身の部分はその場から離れ、上がり框に棒立ちになっていたのは私の形をした抜け殻だった。
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