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闇よりも深い黒い色の、人ともつかぬその影に、少女は悲鳴をあげようとしたが、のどの奥で声がかたまってしまったかのように小さな声しか出てこない。
(逃げなきゃ!)
少女は後ずさると、影に背中を向けて全速力で駆け出した。傘をさしていても雨にぬれるが気にしていられない。肩にかけたカバンが激しく揺れる。
家に帰る方角とは違うけれど、まわり道をしてでも帰れればいいから、正体のわからない怪現象から逃れようと、必死に走った。後ろを振り返って影に追いかけられているのかどうかさえ確かめる勇気がない。
十月も半ばとなれば日の沈む時間も早くなる。周囲はもう薄暗くて、間もなく夜になる。少女は夜の闇にひそむ「なにか」がはい出してきた……そんな想像にとらわれる。
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