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――――――
誰も覚えてはいなかった。すべておかしくなる前に戻っていた。ただ少し違うのは、誰もコウを覚えていないということだ。
あの後いきなり目の前が真っ白になって、気がついたらコウだけはいなくなっていた。
泣いた。誰もいない丘の上のベンチ、コウと別れたあの場所で思いっきり。
一冊の本は、その場に置いてあった。ネタバレはされてしまったけれど、読んでみようと思ってページを捲った。それはまるでコウの話だった。
本を抱きしめ、やっと止まった涙をまた流す。あの歌のように、涙が零れてしまわないよう上を向いた。
荒廃した世界は元に戻り、空は青く輝いている。その中に一つ、キラキラと煌めく星があった。
「コウ……」
それは俺を、恍惚とさせた。
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