天使のささやきにのせて

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卒業式当日。 白い鳥に変身できないサマンサに教師陣は、棟に登らなくてもいいと言ったけれど、それには応じなかった。 想像した通りに上手くいくだろうか。 いや、きっとうまくいく。 冷たくなった手をきつく握った。 教師陣は、何かするつもりではないかと、監視の目でこっちを見ていた。 しかし、空飛ぶほうきも魔法の杖さえ持っていないから大丈夫だろうと、尖塔に行くのを止められなかった。 サマンサは、内心、にまりとしていた。 大きな講堂といっても全校生徒が入るには狭すぎるため、卒業式は、卒業する九年生と、送る言葉を述べる八年生のみで行われた。 七年生は、尖塔の最上階で待機する。 式が終わる頃、白い鳥に変化し卒業生を空から祝うのだ。 あとの生徒は、校門までの道に花道を作って送ることになっていた。 十一時を示す鐘が鳴った。 もうすぐ卒業生が、講堂から出てくる。 教師陣の指示のもと、次々に生徒が白い鳥へと変わる。 尖塔の最上階の窓辺に並ぶ、白い鳥。 連なって飛ぶ白い鳥は、澄みきった底のない青い空に映えるだろう。 そんなことを考えていると、窓辺にいる教師が 「飛べ」 と空を示した。 バサバサっと羽音がする。 最後の一羽が飛び立ち、残ったのは、サマンサと教師陣だけになった。 困ったような、仕方なさそうな顔がこちらを向く。 「ここから見るといい」 窓辺にいる教師がサマンサを手招きした。 サマンサは、広くなった石造りの部屋を見渡した後、足先に全意識を集中させた。 無風だった部屋に、サマンサから微量の風が吹いた。 右足を軽く踏み鳴らすと、サマンサを中心に魔方陣が赤い光を放つ。 「お、おい!」 教師陣が慌てて、サマンサの駆け寄った。 それを目の端で捉えると、魔方陣から空飛ぶほうきを召喚した。 伸ばされる手を逃れ、窓辺へと駆け寄り、躊躇なく飛び降りた。 手に持った空飛ぶほうきがサマンサを連れ、空高く昇っていく。 上昇が止まると、体を左右に振った。 その反動で空飛ぶほうきの上に足をかけ、跨いだ。 足元では、白い鳥が旋回しているが、上空にサマンサがいるのを見つけると、速度を落とした鳥に、後続の鳥がぶつかっていた。 サマンサは、驚いている白い鳥になっている同級生たちに、ニヤッと笑うと、ほうきを持っていない右手を、真上へと伸ばし、手のひらに意識を置いた。 ほどなく、講堂から校門までの上空いっぱいに、青い魔方陣広がっていった。 これ以上広がらないというところで、 「パウダースノー」 と、唱えた。 すると、魔方陣から、細かな雪が地上へと降り注いだ。 見下ろすと、空を見上げる卒業生の姿の中に、両手を大きく振っているアデーレの姿を見つけた。 サマンサは両手を魔方陣に向けると、降り方がより一層強くなり、細かな雪が辺りを白く染めた。 白い鳥たちは地上に降り立つと、次々と元の姿に戻り上空を見上げた。 足を止めた卒業生、在校生に関係なく、歓喜の声が聞こえてきた。 ダストのような雪は太陽の光を受け、ダイヤモンドのように輝いた。 卒業生を祝福するように煌めくそれを、人は天使のささやきと言う。 満面の笑みで見上げる手を振る彼女に、届きますようにと願いながら、 「門出に幸あれ!」 と、天使のささやきに声をのせた。 サマンサは、このあとこってりと絞られたけれど、気持ちは晴れやかなだった。 「まったく、魔法の杖もなく魔方陣を描き、パウダースノーをふらせるなんて、上級者のやることだ」と教師陣はため息をつき、苦笑していた。 この卒業式の光景は、サマンサという名と共に、ずっと先まで語り継がれたという。
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