ツクモ神最後ノ日

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「いやぁ、本当この量凄いな……」  その場にあるお焚き上げ予定の物たちを半分ほど確認した頃、忌一は思わずそう漏らした。ずっと中腰で作業をしていたせいか、流石に腰が悲鳴を上げつつある。もう十五分以上物色しているが、依然として手がかりすら掴めていなかった。 「本当に付喪神なんているのかな?」 「人間がそう呼ぶだけで、存在自体は異形とそう変わらぬぞ。ただ、付喪神は()(しろ)として物に住み着くという違いはあるがな」  忌一の肩の上で、花咲かじじいのような恰好をした桜爺はそう説明する。忌一は「そんなもん?」と言って傍の小さめの箱を手に取り、中から雛人形を取り出した。  その人形は幼さの残る顔で横笛を手にしており、おそらく五人囃子(ごにんばやし)の中の一人だ。忌一はダメ元で「なぁ、俺のこと知ってる?」と聞くと、「鬼の()のキイチだろ」と応えがあった。 「え!? 喋っ……え!?」 「こやつ、付喪神じゃな」  まじまじとその人形を見ると、その視線に耐えられなかったのか、人形はいきなり横笛をピーと吹いた。あまりの音量に思わず二人は耳を抑える。 「何で俺のこと知ってんの?」 「ここにいるやつは皆知ってる。噂話が好きだからな」  この寺に預けられた物たちやもともと寺に住み着く異形などは、忌一のことを噂していたという。十年前にこの寺で静養していた時も、忌一は異形を目にしていたし、数か月前にここへ来た時も堂々と式神と会話している。  そんな姿を目にすれば、寺で退屈している人ならざる者たちの間では、恰好の話題となるのは必然なのだと。 「君が俺を呼んだの?」 「違う」 「じゃあ誰か知ってる?」 「多分、カツドン」 「かつ丼!?」  思わず桜爺と顔を見合わす。何故ここへきて、食事のメニューが登場するのか。 「最近この寺へやってきた新入りだ。凄い焦ってた」 「かつ丼て名前なのか。どんな奴?」 「丸くてふわふわしてる」 (丸くてふわふわだぁ?)  忌一はその場から周囲を見渡してみた。運び出された荷物の中央ほどまで足を踏み入れていたので、三百六十度物に囲まれている。一度開けた蓋は閉めなくても良いとのことだったので、半分以上のものは蓋が開け放たれていた。  その他にはそもそも箱に入っていないものいくつかあり、その代表的なものが人形やぬいぐるみだ。 (ぬいぐるみなら、ふわふわか?)
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