ツクモ神最後ノ日

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 世間ではちらほらと桜の花がほころび始めた頃、まだまだ枯れ木の目立つここ久縁寺(きゅうえんじ)では、早朝から慌ただしく人が動いていた。  境内の一角では、膝の高さまで丸太が組まれ、その中心にはまだついたばかりの小さな炎がパチパチと音を立て火の粉を飛ばしている。そのすぐ傍で作務衣(さむえ)姿の坊主が二人、火を消さないよう時々小枝や紙をくべて暖をとっていた。  日々少しずつ気温が上昇しているとはいえ、まだまだ作務衣だけでは堪える寒さだ。三寒四温とはよく言ったもので、この日は三寒の方だろう。  焚き火から少し離れた寺の縁側で、同じく作務衣姿の住職がこめかみの汗を拭いつつ休憩をしていた。その足元には、大小さまざまな大きさの箱が所狭しと置かれている。そして寺の奥から坊主が一人、同じような箱を両手いっぱいに抱え、住職の足元まで運び出していた。 「すまんな。日頃の運動不足が祟ったようだ」 「構いませんよ。住職は暫く休んでください。私はまだまだ若いので」 「抜かせ」  二人はアッハッハと笑い合う。住職の方が年上だが、二人は五十を挟んで五歳ほどしか違わない。あとの坊主二人は二十代と三十代、彼らよりは圧倒的に同世代だ。この久縁寺では、住職を含めこの四人が共に生活をしていた。  廊下の奥の方へ向かって「まだあるか?」と住職が訊ねると、「あともう少しです」という返答がある。ホッと胸を撫でおろすと、住職は未だ額ににじみ出す汗をゆっくりと拭った。  この日の空は雲ひとつなく晴れていて、気持ちの良い陽光が境内へ降り注いでいる。しかし季節の変わり目のせいか、時折ビュオウと鳴くような強めの風が吹くので、油断をすればすぐに風邪を引くかもしれない。  改めて気を引き締め直そうとしたところへ、境内の砂利をザクッザクッと踏み鳴らす音が聞こえた。見るとそこには、灰色のジャケットにGパン姿の青年がこちらへ向かって歩いている。目が合うと青年は手を挙げ、気まずそうにはにかんでいた。 「なんだ、忌一(きいち)か。急にどうした? こんな朝早くに。また来客か?」  住職は茶化すようにそう言うと、わざとらしく忌一の背後を確認してみせる。以前彼がフラッとこの寺を訪れた時、人ならざる者――若い女の死霊を連れてやって来たからだ。
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