卒業

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卒業

「いやー、もう卒業シーズンってわけかー」  男がこたつに入りながら、散らかり放題のリビングでそう言った。スーパーのパートから帰って来た男の妻は、男の言葉に何も返さずに黙ったまま、シンクに突っ込んであった食器をちらりと見る。床には脱ぎ散らかした衣類。洗濯物を干しておいて欲しいと言ったのに、庭の物干し竿には何も掛かっていない。  男の妻の瞳に、輝きは無かった。  そんなことに気が付かない男は、小学校を卒業したばかりの少年のインタビューのテレビ画面を寝転んだまま観ている。 「卒業か。皆、新たな世界に羽ばたいていくんだな」 「……」 「良い響きだ、卒業! 万歳!」 「……私も卒業して良いかしら?」 「ん?」  突然、妙なことを言った自分の妻を男は振り返って見る。 「なんだ? パート、辞めるのか? 良いぞ。お前の自由にして」 「……辞めるのは、パートじゃないわよ」  ふふふ、と男の妻は笑う。  そして、鞄から一枚の紙を取り出した。それは――。 「私、あなたから卒業したいの」 「……え?」  片方だけ記入済みの離婚届。  男は妻から、重みのある卒業証書を突き付けられたのだった――。
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