存在しない部署

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少し暑いくらいの陽気の午後、川村律人はショッピングモール内にあるコーヒーショップで寺島涼真の背後にいた。 Tシャツにジーンズ姿の律人と、赤いロングTシャツに黒いシャツをコートのように羽織った涼真は距離を取って列に並んでいる。 律人は涼真を視界に入れながら冷たいコーラを注文して受け取り口に行き、フタを軽く開けて涼真に近づいた。 「…!?」 人混みに押されたフリをしてコーラを涼真にかける。 「うわ…っ、すいません!」 コーヒーを片手に呆然としている涼真に向かって大げさに謝ってハンカチでTシャツをふく。 「あ…どうしよ…、えとクリーニング…」 「大丈夫です、上でとりあえず代わりのシャツ買って着替えるんで気にしないで」 涼真は怒るでもなく冷静に今後の対策を言った。 「俺買います。今濡れてるやつ脱げます?」 「絞ったほうが早いな。トイレ行くわ。服くらい自分で買うからもういいよ」 「でも…」 トイレに向かいながら律人は財布から2万円取り出して渡そうとした。 涼真は困ったような顔で笑顔を作る。 「このシャツ、ゼロがひとつ足りないよ?」 「え…」 さすが一流企業の部長の愛人は金回りがいいんだなと思った。 「う・そ。あはは、信じた?」 長いTシャツが吸ったコーラを洗面台にしぼりながら鏡に映る顔と本人がくすくす笑っている。 「何だよ、パニクってたから信じたよ」 ほっとしたような顔を作って律人が体の力を抜いた時、ドン!と強く押されて個室に押し込まれ、涼真も入ってきた。 「お前、俺に何の用だ?」 律人は片手で首を掴まれて壁に体を押し付けられている。 まさかこんな青年に負けるとは思わなかった。 律人は震える手で警察手帳を提示した。 「なんだ、同業者か」 涼真はまじまじと手帳を見てから首を掴んでいた手を離してむせている律人に手帳を返した。 「あんたにマークされる理由がわからないんだけど」 狭い個室内で壁に追いつめられながら律人は涼真の顔を睨み返す。 「言う必要があるか?」 律人の稚拙な言い分に呆れたのか涼真は小さくため息をついた。
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