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存在しない部署
白いシーツを細い指が握りしめている。
高層階のホテルの一室、壮年の男と若い男が妖しく絡む。抱かれている男はもっと刺激が欲しいのか潤んだ目で自分の上に跨る男を見つめた。
黒髪がクッションに散らばる。若い男が伸ばす左腕を、男が掴んで微笑を浮かべた。
「今夜は欲張りだな、涼真」
掴まれた手首をぼんやり眺めて、若い男が口を開く。
「…久しぶりすぎるから」
中心で分けて、後ろを短めに切りそろえた髪が不服そうに揺れる。うなじに浮かぶ汗が、攻めている榊雄一郎の芯に刺さり無意識に口角が上がる。
後ろに流して整えていた髪。その髪型は怖く見えると涼真が言うが「社会人の身だしなみ」と言って榊はやめない。
どうせ会えば髪型なんか崩れる。
「あ…、う…んっ……!」
奥のほうまで強く突き上げてこのわがまま姫のご機嫌を取ろうと榊が激しく動き出した。
「い…っ、ああ…ぁ……」
「気持ちいいだろ?」
榊の意地悪な問いに涼真のそこが狭くなった気がした。
体は正直でよろしい。そう思いながら苦しそうに眉間に皺を寄せて喘ぎ声を上げている涼真を見おろした。その眼に青白い光が走る。
榊の手管に翻弄されながら涼真はだんだん色気を混ぜた声しか出せなくなる。
「あ…ん…、榊さ…ん…」
ほんのり色を帯びた胸の突起をさらりと舌で舐められて涼真が甘い吐息を出す。
「もうギブアップ?」
耳元で囁かれて涼真がかすかにうなずいた。
「久しぶりだからな。まだやめないよ」
広い部屋に涼真の甘い悲鳴が響いた。
「榊さ…ぁ…榊さん…、好き…す…き……」
肩に腕を回して涼真が甘えた声で呟く。これが演技だったらたいしたもんだ。榊は頭の片隅でそう思った。
定期的に響く肉がぶつかる音と卑猥な水音がしばらく続く。
涼真の勃ちあがり血液が鬱血した色をしているそれの鈴口からは絶えず透明な液があふれて止まらなかった。
「…っあぁ…!」
それを親指を使って強く塗り込めるように触ると限界に近い涼真の口から嬌声があがる。
「も…だめ…榊さ……」
いいように榊に握られてしごかれたそれはあっけなく白い液を撒き散らした。
掴んでいた左腕を離すと力なくシーツに落ちる。
荒い息が整わないままクッションに沈む涼真の意識は朦朧としているようだった。
「かわいいな、涼真は」
榊は目を閉じたまま動かない涼真の顔に意地悪に歪む口元を近づけた。
「勝てない勝負をいつも仕掛けて返り討ちだ」
そう言って軽く髪をなでてから榊も涼真の中に射精した。
「お前は裏切らないでくれよ」
そう言って立ち上がり、シャワーに向かう榊の後ろ姿を、涼真はまぶたを開いて追う。
そこからは何の感情も読めなかった。
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