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ドラゴン種は、人間より根本的に体が大きく、力も強い。それは、僕よりも小さな赤ちゃんでも同じだった。僕が小学校一年生の時に生まれた赤ちゃんだから、その子は七歳も年下なんだけど。みるみるうちに大きくなるし、腕にはドラゴン種特有の鱗も生えてくる。顔も見た目も、明らかにお母さんよりお父さんにそっくりの赤ちゃんだったんだ。
爪もやや鋭い。お母さんに頼まれて僕は赤ちゃんのお世話をしようと頑張ったけれど、正直そのたびに怪我をするのは免れられなかった。赤ちゃんが怒って腕を振り回すと、僕の腕や足には大きな痣ができたし、爪がひっかかると血が滲んだからだ。おてんばな赤ちゃんだったので、僕は妹が余計な真似をしないようにいつも見張っていないといけなかった。そして、そんな監視を続ける僕を妹も疎ましく思っていたのだろう、僕が一緒にいると、彼女は暴れることが少なくなかったのである。
だってボールを飲みこもうとすれば僕が血からづくで止めるし、コンセントによだれまみれの指をつっこもうとすればやっぱり叱るし、ハイハイでベランダから出て行こうとすれば阻止する。そりゃ、彼女からしても好きなようにさせてくれない僕は腹立たしい存在だっただろう。
『いつも、春名のことを見ていてくれてありがとうね』
僕が妹の面倒を見ていると、お母さんは嬉しそうにする。
『そのおかげで、お母さんはしっかり休めるし、お仕事もできるわ』
お父さんは仕事で家に帰らないことが多いし、お母さんも仕事をしている。お母さんが休みたい時や、保育園に行くまでに仕事が終わらない時は、僕が学校終わりに妹を迎えにいくのが普通だった。
妹は保育園でも暴れん坊で、保育士さんを困らせてしまっているらしい。僕が迎えに行くと、優しい顔をした保育士のお姉さんは心配そうに言ったんだ。
『遥君、だよね。春名ちゃんの面倒見るのはえらいけど、大変じゃない?大丈夫?』
そのたびに、僕は保育士さんに笑顔で言ったんだよ。
『大丈夫。僕は、お兄ちゃんで、男の子だから』
それは、お母さんの口癖だったんだ。
お兄ちゃんだから春名を守れるわよね、とか。任せて大丈夫よね、とか。男の子だから我慢できるわよね、なんてのが。僕はそれを律儀に守ってたんだ。そうしなきゃ、お母さんに嫌われてしまうと思っていたから。
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