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……うん。なんとなく、瑛太もわかってきたと思う。この状況は少々おかしい。お母さんが、子育てと仕事の両立で大変だったのは事実だろう。お父さんが出張続きで、その負担がしんどかったのも間違いないだろう。でも、だからって本来赤ちゃんのお世話を小学校一年生の男の子に任せるのは相当まずいよね。いくら僕が赤ちゃんのミルクの作り方やおしめの替え方をマスターしているからといっても、何もかもお母さんと同じようにできるわけじゃない。
ましてや、僕はまだ小さかったから、大きな赤ちゃんだっこしてあげることもできなかったんだ。それで、赤ちゃんの何もかもを守ってあげるなんてできるはずもない。
僕自身もうっすら気づいてた。でも、それを言えなかったんだ、怖かったから。
――僕は、お兄ちゃんだから、守らなきゃ。
赤ちゃんが一歳になる頃。僕は体中が、包帯とばんそうこうだらけだった。
普通の赤ちゃんでもお世話は大変なのに、相手はドラゴンの血が強い大きな妹。一歳で既に、力で僕は妹に勝てなくなっていたし、面白半分で首を絞められて意識が飛びそうになることもあったほどなのだ。
このままではいけない。でも、お母さんを楽にさせてあげなくちゃ。そんなことを考えながら、僕はその日お母さんのかわりに春名を保育園に送っていこうとしていた。この頃にもなると、本当にお母さんは春名のほとんどの世話を僕に任せるようになっていたんだ。夜中に春名が夜泣きしても起きるのは僕だったし、お母さんが一人で出かけたい時は学校やクラブ活動なんかを休んででも僕が家に帰ってきて彼女の様子を見ているように頼まれるのが当たり前だった。
先生も、さすがにそろそろおかしいと思っていたはずだ。僕は妹にやられたなんて言えなくて、ひたすら転んでけがをしたとばかり主張を続けていたけれど。
そして、事件は起きた。
お母さんが仕事に行く前に、僕が保育園に春名を送っていこうとした時。暴れた春名の足の爪が、僕のおなかに突き刺さったのである。すごく痛かったし、たくさん血が出た。でも、早く行かないと保育園のバスが来てしまうし、僕も学校に遅刻してしまう。お母さんにも心配されたくないし、また失敗したのと思われたくもない。
だから、痛いのを我慢して、バスのところまで妹を送っていったんだ。そして。
『ちょ、君……どうしたんだ、酷い怪我じゃないか!』
『え?あ……』
バスの運転手さんが飛び出してきた。僕は、自分で思っていたよりもずっと重傷だったらしい。というか、後で聞いたら失血死寸前だったって話だ。痛い痛いとは思っていたけど、まさかここまでだったとは、っていうね。
そこで僕の意識はぱったりと途絶えている。
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