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人間のお兄ちゃん。
これは、僕はまだ小学生だった頃の話だ。
瑛太も知ってる通り、僕が子供の頃っていうのは丁度、異世界と地球の交流が本格的に始まった頃だったんだよね。地球のずっとずっと遠い場所から、妖精さんやモンスター、魔族、天使、いろんな種族がやってきて地球人との交流が活発化していた頃だ。地球の資源が枯渇し始めたのを、異世界の人達が魔法で助けてくれる。その代りに、僕達地球人は科学の力で異世界の人達を助ける。そういう仕組みが、世界中で取り入れられるようになってから数年くらい過ぎた、って頃だ。
異世界の人達がやってくるようになると何が起きるかといえば。地球人の人と友達になろうという人もいるし、喧嘩をする人もいる、恋人になる人もいるということ。
そりゃ、元々生きていた世界も違うんだし、種族が違うということは出来ることも常識も違うということでもある。今の時代はだいぶ、法律の整備されたし理解も進んで来たけれど――当時はそれぞれの種族間の違いについて、あまり認識が広まってない頃だったからね。いろいろとトラブルも多かったんだよ。
さて、そんな世界において。
僕のお母さんは、再婚することになったというわけだ。
僕自身のお父さんは、人間だった。でもどうしてもお母さんとは価値観があわなくなってしまったらしく、離婚することになったんだよね。で、お母さんは再婚したんだけども、その相手が異世界出身、それもドラゴン族の人だったんだよ。
ドラゴン族がどういう人達かは知ってる?……そうか、瑛太は小学校でちゃんと勉強するんだね。そう、普段は人に近い姿なんだけれど、身長は人間よりも少し大きくて、小柄な人でも2メートル以上あるんだ。お母さんが再婚した新しいお父さんはドラゴン種の中ではかなり小さかったけれど、それでも2メートルと少しあってね。165cmあるお母さんが随分小さく見えたのをよく覚えてるよ。
新しいお父さんは、無口だったけどなかなか優しい人だった。僕のことも、本当の息子のように大事にするよと約束してくれた。僕にとってのお父さんは、たった一人だけ。いくら優しい人でも新しいお父さんが来るのは嫌だったけれど、お母さんが“今日からこの人をお父さんと呼ぶのよ”と言って、僕が迷っていると悲しい顔をするからそう呼ぶことにした。お母さんが、苦しい顔をすると僕も苦しかったからね。
新しいお父さんはとても忙しい人で、あまり家にいることはなかったけれど。それでもお母さんとの仲が良いのはすごくわかった。前のお父さんのことを思いだすと、ちょっと淋しかったけれど。
やがて、お母さんと新しいお父さんの間には赤ちゃんが生まれた。お母さんは赤ちゃんを僕に見せて、こう言ったんだ。
『はい、遥。この子が、今日から遥の妹よ。この子を守ってあげてね』
『う、うん』
赤ちゃんは人間の僕と違って、ドラゴンとのハーフ。だから少し薄緑色の肌をしていた。
今日から僕は、お兄ちゃん。この子を守るのが僕の役目。そうすればお母さんは喜んでくれるんだと、そう思ったんだ。
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